ミラクルエッシャー展

上野の森美術館にて開催中の「ミラクエッシャー展」へ。

 

まずエッシャーについて。 

マウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898-1972)は、オランダのレーウワルデン出身の版画家。1919年からハールレムの建築装飾美術学校にて建築を学ぶが、やがて版画科に移り、ウッドカットやリトグラフ、リノティントといった版画技法の経験を積んだ。彼は生涯版画というジャンルにこだわり続け、その生涯に残した作品はすべてが版画であった。初期においては風景画や宗教画といったテーマに取り組み、その作品からは19世紀後半から20世紀初頭にヨーロッパで流行したアール・デコ様式の影響を見ることができる。また、トロンプ・ルイユ(騙し絵)のような錯視を利用したもの、ひとつのモチーフを繰り返す正則分割によるものなど、その作品のバリエーションは非常に幅広い。また、知名度の高まりを受けて、コンサートプログラムの表紙や小さなグリーティングカードといった商業的作品にも取り組んだ。

 

 そして今回の展覧会の目玉である作品が《メタモルフォーゼ Ⅱ》。

「メタモルフォーゼ」シリーズにおいては、スペインのアルハンブラ宮殿訪問が作品制作の大きなきっかけとなったそう。彼は1922年と1936年の二回宮殿に訪れているが、とくに二回目の訪問時には、丸三日間かけて宮殿内の装飾のスケッチを制作したといわれている。偶像崇拝が禁止されているイスラム教では、動物や人間といったモチーフの代わりに、抽象的な文様が発展しており、アルハンブラ宮殿内の壁もこうした幾何学模様のタイルで飾られていた。エッシャーはこのような精巧な装飾が作り出す秩序や対称性といった美しさに魅了され、この経験が彼の作風に大きな転機をもたらしたそうだ。彼の主題はこれまでの風景画から精神的イメージへ、そして繰り返しのグラフィックやタイリングへと移行した。こうして、1930年代後半に、彼はあるひとつの図形を反転、回転させ、隙間なく並べる手法である「平面の正則分割」という技法を確立した。

 

のちに、このコンセプトを用いてシリーズ最初の作品である《メタモルフォーゼⅠ》が制作され、その二年後である1939〜1940年にかけて制作されたのが《メタモルフォーゼⅡ》。

 

ã¡ã¿ã¢ã«ãã©ã¼ã¼1ã¡ã¿ã¢ã«ãã©ã¼ã¼2

ã¡ã¿ã¢ã«ãã©ã¼ã¼3ã¡ã¿ã¢ã«ãã©ã¼ã¼4

ã¡ã¿ã¢ã«ãã©ã¼ã¼5ã¡ã¿ã¢ã«ãã©ã¼ã¼6

 

本作は3枚の紙シートを貼り合わせた上に20枚の版木を使って制作されており、大きさは縦19.2センチ、横389.5センチというとても巨大な作品...!

 

ãã¨ãã·ã£ã¼ ã¡ã¿ã¢ã«ãã©ã¼ã¼â ãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

 

9.5×90.8センチの《メタモルフォーゼⅠ》と比べると約4倍にあたるのです。

本作では、metamorphoseオランダ語で変形の意)という文字が、チェス盤、断崖の上に立つ街から、鳥や魚などのモチーフによる正則分割へと様々な形態に変容しながら循環し続け、やがてまた最初の文字へと戻っていくという構図が展開されている。エッシャーは《メタモルフォーゼⅠ》でみられた一方向性の変化をさらに発展させ、本作で循環する変化を表現しようとした。本作においてこのような表現がなされた背景には、彼の両親の死、そして第二次世界大戦の影響がある。エッシャーは1939年6月に父、翌年5月に母を亡くしている。また、同月にはナチスドイツがオランダに侵攻している。このような状況下において、繰り返し循環するというテーマは死や戦争に対しての慰みのメッセージなのだろう。

のちに、彼は郵便局の壁画として贈るためさらに中央に3メートルの部分を付け加え、1967〜68年にかけてシリーズ最後の作品である《メタモルフォーゼⅢ》を完成させるのです。 

 

実際に作品を鑑賞してみると、その作図の正確性と綿密さに驚く。モザイク模様や図形が無限に変容していくという発想、なんてユニークなんだろう。

かの有名な騙し絵作品からも分かるように、エッシャーの芸術には空想と幾何学とが融合している。彼の作品はアートとサイエンスの融合を象徴する存在だろう。遊び心あふれる想像力と幾何学的な表現というこの二面性こそが、エッシャーの大きな魅力だと思う。

 

f:id:naminoutatane:20181029013353p:plain《Rind》

この作品もとても好き。奇妙でありながら上品な雰囲気も漂っていて素敵。色合いがセピア色なのも良いなぁ。

エッシャー展は7月29日(日)まで開催中 ✴︎

www.escher.jp